大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

富山地方裁判所 平成2年(レ)9号 判決

控訴人同附帯被控訴人(原告)

片境敏富

被控訴同附帯控訴人(被告)

村中隆

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  本件附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

三  平成元年一一月一五日午後一一時三〇分頃富山県射水郡大島町八塚三六三番地先路上で発生した一審原告運転の普通乗用自動車(富五六め九五八八号)と一審被告運転の普通乗用自動車(富山三三に二五三七号)との衝突事故に基づく一審原告の一審被告に対する損害賠償債務は金一九万六〇〇〇円を超えて存在しないことを確認する。

四  一審原告のその余の請求を棄却する。

五  一審原告は一審被告に対し、金一九万六〇〇〇円及びこれに対する平成元年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  一審被告のその余の請求を棄却する。

七  訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む)は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その七を一審原告の、その三を一審被告の負担とする。

八  この判決は、第五項に限り、仮に執行することができる。

事実

一  一審原告代理人は、控訴の趣旨として、「原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。平成元年一一月一五日午後一一時三〇分頃富山県射水郡大島町八塚三六三番地先路上(以下「本件事故現場」という。)で発生した一審原告運転の普通乗用自動車(富五六め九五八八号)(以下「一審原告車」という。)と一審被告運転の普通乗用自動車(富山三三に二五三七号)(以下「一審被告車」という。)との衝突事故(以下「本件事故」という。)に基づく一審原告の一審被告に対する損害賠償債務は存在しないことを確認する。一審被告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。」との、附帯控訴の趣旨に対する答弁として、「附帯控訴を棄却する。」との判決を求め、一審被告代理人は、控訴の趣旨に対する答弁として、「本件控訴を棄却する。控訴費用は一審原告の負担とする。」との、附帯控訴の趣旨として、「原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。一審原告の一審被告に対する請求を棄却する。一審原告は一審被告に対し金二八万円及びこれに対する平成元年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、一審原告の主張として次のとおり付加するほかは、原判決摘示のとおりであるから、これを引用する。

(一審原告の主張)

1 一審被告は、先行する車両が少なくとも二台いることを承知のうえ、本来車の通行が予想されない車道外側部分を通過して、速度を落とさずに先行車の左側を追い抜こうとしたものである。一審被告の場合、道路交通法上は、先行車の右側方を通過して追越しすべきであり、しかも、一審被告のように先行車の左側、車道外を利用して追い抜くには、先行車の動静に注意し、速度を落として進行すべきであるのに、一審被告はこれも怠つたものである。

2 一審原告としては、本件のように自車及びその後続車の左側の車道外側線を越えて追い抜き進行してくる車両の存在を予想することは全くできなかつたものであり、かかる予想を自動車運転者に要求することは酷である。

三 証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故発生の経過及びその態様並びに本件事故により一審被告の被つた損害の内容と額についての当裁判所の認定・判断は、左に付加訂正するほかは、原判決が四枚目表八行目から五枚目裏五行目までに判示するところと同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決四枚目裏四行目「証拠」を「証拠(甲一、当審証人稲原正治、原、被告本人各第一、二回)」に改める。

(二)  同六行目「にあつて、」の次に「片側一車線の道路であり、」を、「歩道」の次に「(中央線からの距離五・一メートル)」を加え、「車道外側線」を「車道外側線(中央線からの距離三・一メートル)」に改める。

(三)  同一〇行目「原告は」の次に「平成元年一一月一五日午後一一時三〇分ころ、富山県射水郡大門町大門方面から大島町赤井方面に向けて、高陵代行の代行運転手として」を加え、「自車」を「客の車(以下「原告車」という。幅一・六七メートル)」に、「運転中、」を「運転していた。そのすぐ後には同じく高陵代行の代行運転手稲原正治が代行車を運転して追従していた。」に改め、同行目から一一行目にかけての「前車が突然一時停止した」を「本件事故現場の一〇〇メートルほど手前にさしかかつた時、前方を走行していた車(以下「右折車」という。)が速度をかなり落としていた」に改め、同一一行目「これを」の前に「原告は」を、「合図を出し」の次に「、中央線に寄り減速していつ」を加え、「前車」を「右折車」に改める。

(四)  同五枚目表一行目「が右折の合図を」の次に「出し、突然時速五キロメートルほどに減速」を、「取り消し」の次に「減速したため、右折車、原告車、代行車の順に徐行している状態となつた。そこで原告は」を加え、同二行目「前車」を「右折車」に改める。

(五)  同四行目「進行し」の次に「、同時に右折車が右折をしていつたので、それに合わせて態勢を立て直そうとし」を加える。

(六)  同六行目「自車を運転中、」を削除し、「先行車が」の次に「右折車と代行車の」を加え、「自車を運転していた」を「自車(幅一・七四メートル)を時速四〇ないし五〇キロメートルで運転していた」に改める。

(七)  同七行目「一番先の先行車」を「右折車」に、「停車して」を「前記速度で」に改め、「合図を」の次に「出し、代行車も減速しながら右折の指示器を出」を、同八行目「車道外側線」の次に「上」を加える。

(八)  同九ないし一〇行目「時速四〇ないし五〇キロメートル位」を「やや加速しながら」に改める。

(九)  同一一行目「前車」を「代行車」に改める。

二  そこで本件事故における一審原告の責任の有無を検討する。

他の車両を追い越そうとして道路の中央に寄つて走行している車両の運転者は、進路変更をする場合(道路交通法二六条の二第一項)と同様、みだりに左側に寄つてはならないのであつて、左側に寄る場合には左指示器を出したうえで左後方の安全を確認して進行すべき注意義務を負うところ、前記認定事実によれば、一審原告は、左指示器を出すこともなく、左後方の安全確認を怠り、急に左前方に自車を進行させたため、自車をして一審被告車に衝突させたものであるから、民法七〇九条に基づき、一審被告に対し、一審被告が本件事故により被つた損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

この点、一審原告は、かかる場合に自車の左側を車道外側線を越えて進行してくる車両の存在することは予想できないのであるから、一審原告に責任はない旨弁解するが、本件道路の両端には歩道があるため、右車道外側線と歩道の間の道路部分は路側帯にはあたらず(道路交通法二条一項三号の四)、車両の通行が禁止されているわけではなく、また、前方の車両が右折のため道路の中央に寄つて通行している場合には、前車の左側を通行して追い越すべきものとされており(同法二八条二項)、一審原告車の左側には歩道との間に普通乗用自動車が容易に進行できるだけの幅員があつたのであるから、一審原告にとつて左側を走行して追い越そうとする車両の存在を予測することは困難であるとはいえず、かかる車両はないと信頼したことが相当であるとはいえない。

したがつて一審原告の右主張は採用できない。

三  過失相殺について

前記認定の事実によれば、一審被告は、右折する車両を左側から追い越そうとしたのであるから、右折車の動静にも十分注意し、できる限り安全な速度と方法で進行すべき(同法二八条四項)注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠り、一審原告車の存在及びその動静に気付かないままそれまで時速四〇ないし五〇キロメートルで走行していたものをむしろやや加速して進行した過失がある。

ゆえに、本件事故は先に判示した一審原告の後方安全確認等の懈怠と、右に判示した一審被告の過失が競合して生じたものというべきであるが、右折車及び代行車が共に右折の指示器を出し、右折車、一審原告車、代行車が道路の中央に寄つて一列に並んで徐行し車間も詰まつていたという交通状況において、一審原告が道路の左側から追越しをしようと道路左側に寄つて進行する際には、当然後方の安全を確認すべきであり、これはより基本的かつ容易な注意義務であるといわねばならず、一審被告の過失に比較して一審原告の過失の方がより大きいものというべきである。

したがつて、一審原告の損害賠償の額を定めるに当たつては、一審原告の過失を七割、一審被告の過失を三割とし、一審被告の前記損害額から三割を減額するのが相当である。

四  以上の次第で、一審原告の本訴請求は、本件事故に基づく損害賠償債務は金一九万六〇〇〇円を超えて存在しないことを確認する限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却すべきものであり、また、一審被告の反訴請求は、一審原告に対し損害賠償として一九万六〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成元年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却すべきものである。

よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、本件附帯控訴は右に判示した限度で理由があるから、原判決を主文第三ないし第六項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺修明 矢田廣高 中垣内健治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例